門脈体循環シャント
門脈体循環シャントとは?
「シャント」とは、血液が、本来通るべき血管とは別の血管を通ってしまう状態で、「門脈体循環シャント」は、門脈系の血管が後大静脈や奇静脈などの体循環に短絡した状態のことを指します。
この他にも「門脈体循環短絡症」、「門脈シャント」などと呼ばれます。
正常なワンちゃん・ネコちゃんでは、体の中でつくられたアンモニアなどの毒素が腸管から吸収され、門脈系の血管を通って肝臓に運ばれ無毒化されます。しかし、この門脈と全身の静脈の間をつなぐ余分な血管(シャント)が存在することにより、肝臓で無毒化されるべき有害物質が処理されないまま直接全身を回ってしまい、さまざまな症状が引き起こされる病気です。
どんな症状があるの?
消化管で発生するアンモニアやエンドトキシンなどの毒性物質が門脈血から除去されないため、以下の症状がみられます。
- 神経症状(ふらつき、旋回、発作)
- 消化器症状(嘔吐、ヨダレ)
- 尿石症
症状は1歳未満の若齢で発症することが多いですが、シャント血管のタイプによっては比較的成長が進んでから発見されることもあります。
さらに、成長因子なども肝臓を迂回するため、肝臓が正常より成長しない小肝症がみられることが多いです。
当院での症例
犬 mix 2歳
当院でフィラリア予防と一緒に、健康診断を実施しました。その結果、肝臓の数値が高かった為、精密検査を実施することとしました。
追加検査として、総胆汁酸試験とレントゲン検査を実施しました。
総胆汁酸試験では、食前324.8μmol/L(基準値7.9以下)、食後261.8μmol/L(基準値24.5以下)と、基準値よりも高い数値が出ました。また、レントゲン検査では小肝症がみられました(図1)。
この段階で、門脈体循環シャントが濃厚に疑われた為、確定診断の為にCT検査を実施しました。
その結果、左脾静脈-左横隔静脈シャントであることが判明しました(図2)。
外科手術により、シャント血管を結紮する手術を行いました。
門脈体循環シャントの治療として外科手術と内科治療があります。内科治療と外科手術を比較した研究では、外科手術の方が門脈体循環シャントに関連する症状を発症することなく、生存期間も長いことが示されています。
この症例では、無事外科手術を終えることができました。
🔅定期的な健康診断を実施したことで、発作などの重篤な症状がみられる前に治療することができました。本症例のように、病気の早期発見のために、当院では定期的な健康診断をおすすめしています。