猫の慢性腎臓病(腎不全)
慢性腎臓病(腎不全)とは
腎臓はネコちゃんの体の中で、
- 血液から尿をつくり体の中で不要になった老廃物や毒素を尿の中に排泄する
- 血圧を調節する
- ナトリウムやカリウムなどの血液中のイオンバランスをたもつ
- ホルモンを分泌し血液(赤血球)をつくる
などの働きを担っている臓器です。
腎臓がダメージを受けて十分に機能しなくなる状態を「腎不全」といい、これが長期間続くと慢性腎臓病と診断されます。
慢性腎臓病はネコちゃんの老齢期での発症が多く、死亡率の高い病気です。
初期には多飲多尿(水をたくさん飲み、尿量が増え、尿の色が薄くなる)など、尿そのものに関連した変化がみられますが、進行すると食欲不振や体重減少、嘔吐、けいれん発作など、全身的な症状を示すようになります。
慢性腎臓病(腎不全)の原因
慢性腎臓病は以下のようなさまざま原因により起こります。
- 細菌や猫伝染性腹膜炎(FIP)等のウイルスの感染による腎炎
- 外傷
- 薬物などによる中毒
- 心筋症やショックなどによる腎血流量の低下
- 免疫疾患などによる腎炎
- 結晶や結石などによる尿路の閉塞
慢性腎臓病(腎不全)のステージ分類
慢性腎臓病と診断された場合、まずIRIS(国際獣医腎臓病研究グループ)が推奨している“IRIS腎臓病ステージング”によるステージ分類を行うことによって治療の方針を決定します。
ステージ分類は、血液検査によるCRE(クレアチニン)やSDMAの値、尿の状態、血圧の数値などを参考に行いますが、一度の検査だけでなく、定期的に検査を繰り返して病状を正確に把握することが大切になります。
ステージ1
症状は全くみられず、血液検査でも異常値は見つかりませんが、尿検査で尿比重の低下や蛋白尿、腎臓の形状の異常が認められることがあります。
ステージ2【再生医療適応】
慢性腎臓病で最初に見られる症状である「多飲多尿」が起きるようになります。
腎機能が低下してくると尿を濃縮できなくなるため、薄い尿を大量にするようになります。そのため水分不足になり、水をたくさん飲むようになります。
このステージでは、まだほとんどの子で元気・食欲が普通にあり、なかなか異常に気付かないことがありますが、腎機能は正常の4分の1にまで低下しています。
この段階では体調維持に必要な腎機能が残っており、再生医療により腎機能低下の進行を抑える効果が期待できます。
ステージ3【再生医療適応】
さらに腎機能の低下が進むと、老廃物などの有害物質を尿中に十分排泄することが出来なくなるため、尿毒症を発症し始めます。
血液中で高濃度になった有害物質により、口腔粘膜や胃粘膜が荒れて、口内炎や胃炎になりやすくなります。
食欲の低下や嘔吐などの症状が表れ始めます。
加えて、血液検査で腎機能の指標となる数値である、CRE(クレアチニン)、BUN(尿素窒素)の上昇がみられるようになります。
CREやBUNは、本来は腎臓から排泄される老廃物ですが、腎機能の低下により尿中に排泄することが出来なくなってしまうため、血中の濃度が上昇します。
また、腎臓は赤血球の成熟に必要なエリスロポエチンというホルモンを分泌していますが、慢性腎臓病になるとエリスロポエチンを正常に分泌することが出来なくなるため、貧血が起きることもあります。
この段階では生命維持に必要な腎機能が残っているため、再生医療により慢性腎臓病の進行を遅らせ、QOL(生活の質)の維持・改善が期待できます。
ステージ4
重篤な臨床症状がみられる時期です。
尿毒症がさらに進行し、積極的な治療なしでは生命維持が困難になります。
慢性腎臓病(腎不全)の一般的な治療
慢性腎臓病により一度壊されてしまった腎臓の組織が、治療により回復することはありません。そのため、慢性腎臓病の治療では、血液中の老廃物や毒素を体内に貯めないようにすること、そして、慢性腎臓病の進行を緩やかにすることが主体となります。
具体的には点滴(静脈点滴や皮下点滴など)や積極的な水分摂取により、脱水を予防すると共に、体内の水分量を増加させて尿量を増やし、老廃物の排泄を促します。
また、腎臓の負担を軽減させるための食事療法や薬物療法などを行います。
設備のある病院では腹膜透析や血液透析を行い、老廃物の排出を促すこともあります。
慢性腎臓病(腎不全)の食事・サプリメント
尿毒症を引き起こす老廃物を体に貯まりにくくするために、タンパク質・ナトリウム・リン等を制限した食事を与えたり、同様の効果が期待されるサプリメント等を使うことがあります。
例えば、動物病院で扱う腎臓病用の特別療法食や、腸内のタンパク質・リンなどを吸着することで排泄を促進するサプリメント等があります。
給餌方法や量などについては、かかりつけの獣医師にご相談ください。
慢性腎臓病(腎不全)と再生医療
当院では進行性の慢性腎臓病に対して、幹細胞治療(再生医療)を実施しています。
幹細胞治療というと大掛かりで大変そうなイメージがありますが、実際は点滴により細胞を投与するだけで麻酔をかける必要はありません。
幹細胞治療は従来の治療薬とは異なる作用で腎臓の炎症や線維化を抑制することで腎機能を改善し、臨床症状の改善と安定化を示す働きがあることが報告されています。
特にIRIS腎臓病ステージング2・3に分類される軽~中等度の慢性腎臓病(慢性腎不全)に対して、従来の治療法に幹細胞治療を加えることで腎機能の低下をさらに緩和させ、ネコちゃんの良好なQOL(生活の質)をより長く維持させることが期待されています。
当院での症例
猫ちゃん MIX 男の子 8歳
体重減少と食欲不振といった症状があったため、他院を受診されました。そこで血液検査を行った結果、慢性腎臓病と診断されました。
なんとか猫ちゃんのためにと思い、インターネットなどで色々調べられた結果、再生医療を知り、当院へ来院されました。
当院では、慢性腎臓病に対する再生医療(細胞治療)について詳しくご説明し、飼主様は治療を希望されたため、当該治療を実施しました。
細胞の投与中は、点滴していることなど全く気にならない様子で、お部屋の外を見に行こうとするなどとっても興味津々な様子でした。
(皮下点滴や内服薬、腎臓用療法食といった一般的な治療も平行して継続しました。)
最終的には2回目の細胞投与の後、残念ながら永眠されてしまいましたが、再生医療(細胞治療)実施から2週間後ぐらいから、あまりごはんを食べなかった猫ちゃんが少しずつ食べられるようになり、食欲が減っていく一方だった猫ちゃんが食事をとってくれたことに飼い主様はとても喜ばれていました。
猫ちゃん MIX 男の子 17歳
2週間ほど前から食欲低下があり、他院を受診したところ、慢性腎臓病と診断されました。
慢性腎臓病についてインターネット等で色々調べられたところ、再生医療を知り、当院に来院されました。
来院時は、腎臓の数値も高く、食欲はほぼ無く、あまり元気もない状態でした。
最終的には再生医療(細胞治療)1カ月半後に状態が悪化し永眠されましたが、当該治療1カ月後には血液検査の数値に改善が見られ、少しですが、元気も取り戻すことができました。活動性が上がったことで頻繁に飼い主様の目の前に姿を現してくれるようになったと、嬉しい変化が見られました。
猫ちゃん 男の子 5歳
当院のグループ病院である新宿御苑前どうぶつ病院の症例です。
体重が減ってきたということで、他院(かかりつけ医)を受診されました。血液検査を行った結果、腎臓の数値(BUN、CRE、SDMA)が悪く、腎臓病と診断され、皮下点滴、内服薬、腎臓病用の療法食にて治療を行っておりました。
他にも何かやってあげたい、できる限りの治療を選択したいとのことで再生医療での治療を決断し、当院へ来院されました。
当院においても血液検査を実施したところ、やはり腎臓の数値が悪かったため、慢性腎臓病と判断をし、点滴にて再生医療(細胞治療)を実施しました。
投与2週間後に再度来院頂き、血液検査を実施したところ、一部の値(CRE)が改善されました。
さらに、投与4週間後に再度来院頂き、そこでも血液検査を実施したところ、3種類ある腎臓の値すべてが改善されました。
現在(2022年11月)も自宅での皮下点滴、内服薬、腎臓病用の療法食を続けており、元気食欲を維持している状態で定期的に通院していただいています。飼い主さまからからも『投与前より活発になった。数か月は持たないと言われたのが噓のように元気にしている』と嬉しいお言葉をいただきました。
再生医療(幹細胞治療)の流れ
当院では、日本で初めてのどうぶつ専門の再生医療専門病院である動物再生医療センター病院勤務経験のある獣医師が、再生医療のカウンセリング、再生医療適用可否の判断、再生医療の実施、その後のケアを担当させて頂きます。
再生医療担当医
院長 花野みなみ
・2016年~2020年
横浜市の動物再生医療センター病院にて再生医療研究、細胞治療、一般診療、獣医師向けセミナー等を実施。
・2020年4月~
自由が丘動物病院にて一般診療に従事後、2020年9月から当院院長を務める。
【問診】
【検査】
【治療】
当院における再生医療の記事はこちらを参照ください。
お問い合わせ
幹細胞治療は、細胞のもつ炎症を抑える働きや、組織の線維化を抑制させる働きを利用することで、腎臓の炎症を抑え、腎機能の維持・回復が期待できる最先端の治療法です。
慢性腎臓病について診察をご希望の方は、当院へお気軽にお問合せください。