アトピー性皮膚炎ってどんな病気?(一般的治療と再生医療)
人と同様に、ワンちゃんにもアトピー性皮膚炎があるのを知っていますか?
ワンちゃんのアトピー性皮膚炎は、アレルギー性の皮膚病として最も一般的なもので、良くなったり悪くなったりを繰り返す、かゆみを伴う湿疹が見られるのが特徴です。
目や口のまわりが脱毛し、皮膚が赤くなっている様子が見られます。
目の周りの皮膚が赤くなり、一部黒ずんでいます。
治療方法は、ステロイドや免疫抑制剤などを投与する標準治療や、最近注目され始めている再生医療(細胞治療)などがあります。
どうして
アトピー性皮膚炎になるの?
細菌やウイルスなど、体の外から侵入してきた敵と戦うために免疫反応が必要とされますが、アトピー性皮膚炎のワンちゃんでは、本来戦う必要のないものに対してまで過剰な免疫反応がおきてしまい、皮膚にかゆみを引き起こします。
そしてこの過剰な免疫反応が起きてしまう原因は、アレルギーを起こしやすい体質(これをアトピー素因といいます)や、皮膚のバリア機能の低下であると考えられています。
どうやって診断をするの?
アトピー性皮膚炎は、経過や左右対称性の湿疹などの症状から疑い、他のかゆみを引き起こすような病気を除外していくことで診断します。
除外すべき病気として、食物アレルギー、ノミや疥癬といった寄生虫、細菌や真菌などの皮膚の感染症が挙げられます。
アトピー性皮膚炎の診断時には、似たようなかゆみを起こす病気も多いため、安易な診断をせずに、注意深く診察をしていきます。
補助的にアレルギー検査を行い、アレルギー反応を起こす原因を調べることもありますが、アレルギー検査のみでアトピー性皮膚炎を診断することはできないので注意が必要です。
どんな特徴があれば疑う?
年齢 | 生後6ヶ月から3歳頃に 最初の症状が出る。 |
犬種 | ・柴犬 ・トイプードル ・ラブラドールレトリバー ・ウエストハイランドホワイトテリア ・ミニチュアシュナウザー ・パグ ・ヨークシャーテリア など。 |
特徴 | ・前足や耳に症状がある。 ・耳のふちや腰には症状がない。 ・湿疹よりも先にかゆみがあった。 ・プレドニゾロン(副腎皮質ホルモン)でかゆみが改善する。 |
など 以上のような特徴がある場合は特にアトピー性皮膚炎を疑います。
もちろん特徴にあてはまらない子もいますので丁寧に問診を行い、皮膚を観察・検査することが大切です。
治療はどうやるの?
(一般的治療)
ワンちゃんのアトピー性皮膚炎は、生涯にわたる治療が必要とされ、治療中も症状が良くなったり悪くなったりを繰り返すことがあります。
この病気の標準的な治療法として、ある特定の薬のみで、全てのワンちゃんが治療できることはなく、症状や状況に応じてそのワンちゃんに合った治療を行う必要があります。
ワンちゃんのアトピー性皮膚炎の治療では、3つの柱を考えながら治療を行っています。
1.かゆみを抑えること
代表的なものとして、かゆみが強い場合にはプレドニゾロン(副腎皮質ホルモン剤)やオクラシチニブなどを、かゆみをぶり返さないようにするためにはシクロスポリンなどを用います。
2.スキンケアを行うこと
低刺激性のシャンプーや必須脂肪酸サプリメントを使用し、皮膚を清潔に保ち保湿を行っていきます。
3.増悪因子を避けること
アレルギー検査の結果に基づくアレルゲンの回避や、皮膚の細菌感染や真菌感染があればそれらの治療を行っていきます。
治療はどうやるの?
(再生医療)
最近話題になっている再生医療(細胞治療)ですが、ワンちゃんのアトピー性皮膚炎にも効果があることが分かってきました。
再生医療(細胞治療)とは、従来の薬ではなく、様々な効果をもつ幹細胞といわれる細胞を、点滴により投与するもので、大きな痛みなどは伴わないため、麻酔等も行わずに実施可能です。
また、医薬品とは異なり副作用がほとんどないのも特徴です。
再生医療(細胞治療)は細胞の持つ抗炎症・免疫調整作用を利用するもので、一般的な治療では効果がなかったり、副作用の強い薬を長期間利用しなければならない状態となってしまったときに、減薬や休薬する効果も期待されています。
また、薬と異なり、自分の免疫をコントロールしていくものなので、生涯的な効果も期待されています。
症例紹介
症例1(再生医療) 12歳の柴犬
当院のグループ病院である、動物再生医療センター病院の症例です。12歳の柴犬のワンちゃんで、再生医療(細胞治療)前は、痒みもひどく、毛も抜けており、ところどころ皮膚が黒ずんでいましたが、再生医療(細胞治療)後は、痒みも少なくなり、毛が増えてふっくらとした感じになりました。
Before
After
このワンちゃんは、4歳の時に皮膚の赤みやかゆみを中心とする症状が出始めました。
治療開始当初は、食事療法(療法食)と免疫抑制療法(免疫抑制剤の服用)を行うことで症状はすぐに落ち着き、問題なく生活することが出来ていました。
その後も、皮膚の赤みやかゆみを中心とする、アトピー性皮膚炎を疑う症状が度々再発することはあったものの、食事療法とシャンプー療法(動物病院での薬浴など)、症状がひどい時には免疫抑制療法とステロイド療法(ステロイド剤の服用)を併用することで、皮膚炎の症状をコントロールし、皮膚の状態を維持することが出来ていました。
しかし、11歳を過ぎたころから皮膚の症状が次第に悪化するようになり、以前から行っていたような治療を実施しても症状がおさまらず、重度の痒みと身体を搔きむしってしまう事による全身的な脱毛、皮膚の黒ずみが徐々に進行してきてしまったため、新たな治療法として再生医療(細胞治療)を実施しました。
再生医療(細胞治療)は様々な効果を持つ幹細胞を、点滴により投与するもので、大きな痛みなどは伴わないため、麻酔等も行わずに実施可能です。また、医薬品とは異なり副作用がほとんどないのが特徴で、今回も明らかな副作用はありませんでした。
再生医療実施後、次第に痒み症状が落ち着くようになり、治療後3ヶ月の時点で、全身的な皮膚の赤みの大部分が消失しました。
下のグラフは、皮膚症状の程度を表すCADESIー4スコアと、かゆみの強さを表すVASスコアになります。 どちらも上に行くほど悪く、下に行くほど良いという判定になります。 両方のスコアが、投与当日から徐々に下がり始め、3カ月後にはかなり良くなってきたことがわかります。
再生医療実施前から特に症状が強く出ていた尻周囲と口周囲の痒みはまだ完全には落ち着いていないようですが、それ以外の部分(特に腹部や四肢)では症状がほとんど消失し、毛並みも以前の状態を取り戻しつつあります。
症状の改善に伴って、治療薬の減量も進めておりますが、今の所、症状の再発は確認されておりません
ー飼主様のご感想ー
アトピー性皮膚炎の治療は何年も続けており、これまでにも皮膚科専門医の治療なども受けてきましたが、一時的に良くなっても暫くするとまた再発を繰り返していました。
これ以上脱毛が進む前に別の治療を試してみたいと思い、再生医療(細胞治療)を行うことを決めました。
また、現在受診している病院では、今のお薬の量であれば長期間服用しても問題無いとは言われていましたが、やはり心配は残っており、断薬・減薬にチャレンジしたいと思ったのも理由の一つです。
再生医療(細胞治療)実施後は、目に見えて改善している実感があります。
特に、首や足の毛が生えてきていることが嬉しいです。若いころの元気だった姿が戻ってきていると感じています(家の中に子犬時代の写真が飾ってあり、その写真を見るたびに特に脱毛が気になっていました)。
ー当院の再生医療担当医ー
当院では、日本で初めてのどうぶつ専門の再生医療専門病院である動物再生医療センター病院勤務経験のある獣医師が、再生医療のカウンセリング、再生医療適用可否の判断、再生医療の実施、その後のケアを担当させて頂きます。
再生医療担当医
院長 花野みなみ
・2016年~2020年
横浜市の動物再生医療センター病院にて再生医療研究、細胞治療、一般診療、獣医師向けセミナー等を実施。
・2020年4月~
自由が丘動物病院にて一般診療に従事後、2020年9月から当院院長を務める。
当院における再生医療の記事はこちらを参照ください。
対象疾患でお悩みの方や再生医療(細胞治療)をお考えの方はお気軽に当院までご連絡ください。
症例2(標準治療)
6歳のM.ダックスフント
前足の指を良くなめているとのことで来院。内服薬を処方し、一旦かゆみは落ち着いてきましたが、薬を減らすとまた症状が出始めました。
できるだけ薬を少量にしつつ、症状がひどい部位に塗り薬を使用することで症状が落ち着きました。
まとめ
ワンちゃんのアトピー性皮膚炎は、生涯にわたる治療を必要とする病気です。
また治療も内服薬、外用薬、シャンプーやサプリメント、再生医療(細胞治療)など多岐にわたります。
そのため、当院ではさまざまな治療法についてご家族とメリットデメリット、費用などご相談しながら治療を行っていきます。アトピー性皮膚炎を疑うワンちゃんでお悩みの方はお気軽にご相談ください。