犬のアトピー性皮膚炎
犬のアトピー性皮膚炎とは
アトピー性皮膚炎は遺伝的な背景を原因とした慢性的なかゆみを伴う皮膚疾患です。
遺伝的に皮膚バリアの機能が弱く、生活環境にアレルギーを持っていることなどがきっかけとなって発症することが多いとされています。
初期には、眼や口の周りが赤くなり、身体を掻いてしまうことにより薄毛がみられます。
症状が進行すると、慢性的な皮膚炎により皮膚が厚くガサガサになり、脱毛や腫脹がみられるようになります。
犬のアトピー性皮膚炎の細胞治療による治療例
症例1
1歳の頃よりアトピー性皮膚炎を発症した柴犬のワンちゃんです。
全身各所にかゆみ、炎症、脱毛、色素沈着(炎症の結果、皮膚が黒ずんでしまうこと)などが長年みられていました。
間葉系幹細胞療法開始前の外観
(写真ご提供:さくら動物病院 横山 篤司先生)
残念ながら一般的な治療への反応が長年乏しく、アトピー性皮膚炎によりこのワンちゃんの生活の質は大きく低下していると考えられました。
そこで当時人間のアトピー性皮膚炎に対して効果(かゆみと皮膚症状の改善)が示唆されていた間葉系幹細胞治療を行うこととしました。
間葉系幹細胞治療では、これまでの治療とは異なる作用で免疫を調整し、炎症を抑え、組織修復を促し、結果として皮膚の状態改善を期待することができます。
<結果>
間葉系幹細胞治療の約2週間後、頭の周囲、特に耳の色素沈着と皮膚症状の改善が認められました。1か月ほど経過すると、全身の皮膚に発毛・増毛がみられ、特に脱毛していた首回りでは強かった色素沈着が完全に回復していました。
120日後には、間葉系幹細胞治療の前と比較して、さらに皮膚症状の改善がみられ、特に発毛が大きく改善しました。
一方で頻度は減少したものの、かゆみにより脇腹などをひっかく動作は引き続きみられています。
アトピー性皮膚炎に対する間葉系幹細胞投与後の経過
(写真ご提供:さくら動物病院 横山 篤司先生)
まとめ
アトピー性皮膚炎は治療のむずかしい疾患です。
さまざまな治療方法を組み合わせて、かゆみや炎症を抑えていくことが治療の中心になります。
大きな副作用もなく、一般的な治療(食事療法・シャンプー療法・抗炎症薬・免疫抑制剤・抗菌薬・減感作療法など)に良い反応がある場合にはそのまま経過観察する形が適切です。
一方で今回のワンちゃんは一般的なアトピー皮膚炎の治療に反応がなく、長期にわたって状態の改善がみられませんでした。
そこで、間葉系幹細胞治療を実施したところ、2週間ほどで改善がみられはじめ、その後は徐々に皮膚症状の改善や発毛、かゆみの減少が認められようになりました。
症例2
12歳の柴犬のワンちゃんです。再生医療(細胞治療)前は、痒みもひどく、毛も抜けており、ところどころ皮膚が黒ずんでいましたが、再生医療(細胞治療)後は、痒みも少なくなり、毛が増えてふっくらとした感じになりました。
Before
痒みがひどく、毛も抜けており、ところどころ皮膚が黒ずんでいます。
After
かゆみが治まり、毛も増えてふっくらした様子になりました。
このワンちゃんは、4歳の時に皮膚の赤みやかゆみを中心とする症状が出始めました。
治療開始当初は、食事療法(療法食)と免疫抑制療法(免疫抑制剤の服用)を行うことで症状はすぐに落ち着き、問題なく生活することが出来ていました。
その後も、皮膚の赤みやかゆみを中心とする、アトピー性皮膚炎を疑う症状が度々再発することはあったものの、食事療法とシャンプー療法(動物病院での薬浴など)、症状がひどい時には免疫抑制療法とステロイド療法(ステロイド剤の服用)を併用することで、皮膚炎の症状をコントロールし、皮膚の状態を維持することが出来ていました。
しかし、11歳を過ぎたころから皮膚の症状が次第に悪化するようになり、以前から行っていたような治療を実施しても症状がおさまらず、重度の痒みと身体を搔きむしってしまう事による全身的な脱毛、皮膚の黒ずみが徐々に進行してきてしまったため、新たな治療法として再生医療(細胞治療)を実施しました。
再生医療(細胞治療)は様々な効果を持つ幹細胞を、点滴により投与するもので、大きな痛みなどは伴わないため、麻酔等も行わずに実施可能です。また、医薬品とは異なり副作用がほとんどないのが特徴で、今回も明らかな副作用はありませんでした。
再生医療実施後、次第に痒み症状が落ち着くようになり、治療後3ヶ月の時点で、全身的な皮膚の赤みの大部分が消失しました。
Before
After
胸とおなかの写真です。治療前は毛が薄く、皮膚も黒ずんでいましたが、治療後は毛も増え皮膚の黒ずみも少なくなりました。
Before
毛が薄く、目の周りや鼻の上あたりがやや黒ずんでいます。
After
毛が濃くなってきており、目や鼻の周りの黒ずみも減ってきました。
下のグラフは、皮膚症状の程度を表すCSDESIー4スコアと、かゆみの強さを表すVASスコアになります。 どちらも上に行くほど悪く、下に行くほど良いという判定になります。 両方のスコアが、投与当日から徐々に下がり始め、3カ月後にはかなり良くなってきたことがわかります。
再生医療実施前から特に症状が強く出ていた尻周囲と口周囲の痒みはまだ完全には落ち着いていないようですが、それ以外の部分(特に腹部や四肢)では症状がほとんど消失し、毛並みも以前の状態を取り戻しつつあります。
症状の改善に伴って、治療薬の減量も進めておりますが、今の所、症状の再発は確認されておりません。
飼主様の声
アトピー性皮膚炎の治療は何年も続けており、これまでにも皮膚科専門医の治療なども受けてきましたが、一時的に良くなっても暫くするとまた再発を繰り返していました。これ以上脱毛が進む前に別の治療を試してみたいと思い、動物再生医療センター病院を受診することに決めました。
また、現在受診している病院では、今のお薬の量であれば長期間服用しても問題無いとは言われていましたが、やはり心配は残っており、断薬・減薬にチャレンジしたいと思ったのも理由の一つです。
再生医療(細胞治療)実施後は、目に見えて改善している実感があります。
特に、首や足の毛が生えてきていることが嬉しいです。若いころの元気だった姿が戻ってきていると感じています(家の中に子犬時代の写真が飾ってあり、その写真を見るたびに特に脱毛が気になっていました)。
当院における犬のアトピー性皮膚炎の再生医療
アトピー性皮膚炎などの全身性の疾患に間葉系幹細胞療法を実施する場合、静脈点滴と同じ方法で間葉系幹細胞を点滴する方法が一般的です。
時間をかけてゆっくり間葉系幹細胞を投与していくので半日程度お預かりする形(日帰り入院)にはなりますが、麻酔をかける必要がなく動物への負担も少ない方法です。
現在、当院では獣医学的・科学的根拠に基づいた再生医療を提供するとともに、より多くの動物たちが日常的な痒みの苦痛から解放されるよう、さらなる再生療法の確立を目指して日々治療にあたっています。
アトピー性皮膚炎についてお悩みの飼い主さまがいらっしゃいましたら、当院までお電話いただくか、お問い合わせフォームよりご連絡下さい。
また、細胞治療に関わらず、アトピー性皮膚炎の治療や慢性的なかゆみのような症状についてのご相談も承っております。現在の経過や症状についてお悩みの場合など、お気軽にお問い合わせください。
関連リンク
- 犬のアトピー性皮膚炎。症状や原因、治療法を解説【獣医師監修】
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