犬・猫のステロイド薬について
1.ステロイドとは
ステロイドとは、“ステロイド核”と呼ばれる構造を持つホルモンの総称です。
人やワンちゃん・ネコちゃんの体内では様々なステロイドホルモンが分泌されていますが、一般に「ステロイド剤」とは、副腎皮質という器官から分泌されるグルココルチコイドをお薬にしたものを指します。
ステロイド剤は抗炎症作用、免疫抑制作用など多くの薬理作用を持ち、強力な治療効果がありますが、使い方次第では副作用も生じます。
しかし、現在の医学・獣医学では、ステロイドなくしては治療することのできない疾患が数多く存在することも事実です。
ステロイド剤は、期待される作用が副作用を上回る場合にのみ使用します。
低用量・短期間の使用であれば副作用の生じる可能性も少ないとされています。
しかし、長期間の治療が必要となる場合や高用量での使用が必要となる場合には、獣医師と副作用についてよく話し合うことが大切です。
2.ステロイド剤の種類
治療薬として使用されるステロイド剤には、様々な種類があります。 それぞれに抗炎症作用の強さ、作用時間の長さなどの違いがあります。
作用の強さ | 作用時間の長さ | 薬のタイプ | |
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ヒドロコルチゾン | ×1 | 短時間 | 錠剤 |
プレドニゾロン | ×4 | 中間 | 錠剤、散剤、注射薬、軟膏 |
デキサメタゾン | ×25 | 長時間 | 注射薬、錠剤、眼軟膏 |
コハク酸メチルプレドニゾロン | ×5 | 中間 | 注射薬 |
メチルプレドニゾロン酢酸エステル | ×5 | 超長時間 | 注射薬 |
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ヒドロコルチゾン、コルチゾン
最も初期に発見され使用されたステロイド剤。
作用時間が短いため、現在ではあまり臨床現場で使われることはないが、最も基本的なステロイド剤とされている。 -
プレドニゾロン
副作用の誘発が少なく、ステロイド剤の中でも特に多くの疾患・症状で使用されている薬。 -
デキサメタゾン
副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)を診断するための検査の際に用いられる。
人間の新型コロナウイルス感染症に対する治療薬としても注目を浴びている。 -
コハク酸メチルプレドニゾロン
プレドニゾロンより作用が強い。
獣医療では椎間板ヘルニアなどの治療薬として使用されることがある。 -
メチルプレドニゾロン酢酸エステル
プレドニゾロンより作用が強い。
作用時間が極端に長く(作用が1週間以上続く)、副作用が生じる危険性が高いため使用が限られる。
日常的な投薬が難しい猫や、猫の口内炎の治療など、経口薬の投与が難しい症例で使用されることがある。
3.ステロイドの適応疾患
ステロイドホルモン(グルココルチコイド)は本来代謝に関わるホルモンですが、病気に応じて用量を調節して使用することにより、抗炎症作用や免疫抑制作用として使用されます。
(下記用量はプレドニゾロンを使用する場合)
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抗炎症作用
犬:0.5〜1mg/kg、猫:1〜2mg/kg
慢性腸症(CE)
アトピー性皮膚炎
食物アレルギー
椎間板ヘルニア
口内炎
膵炎
慢性気管支炎 など -
免疫抑制作用
犬:2〜4mg/kg、 猫:4〜6mg/kg
免疫介在性溶血性貧血(IMHA)
免疫介在性血小板減少症(IMTP)
免疫介在性多発性関節炎
天疱瘡、エリテマトーデス など
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一部の腫瘍に対して抗腫瘍効果
犬:2mg/kg、 猫:4mg/kg
リンパ腫
肥満細胞腫 など
4.ステロイドの副作用
ステロイド剤の副作用には、以下のようなものがあります。
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免疫力の低下(感染症の悪化、誘発)
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副腎皮質機能不全
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クッシング症候群(皮膚の菲薄化、筋肉の萎縮、骨粗しょう症、高血圧、糖尿病など)
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多飲多尿、多食(肥満)
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肝障害(肝数値の上昇)
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胃腸障害(下痢、嘔吐、胃潰瘍)
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血液凝固亢進
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高脂血症
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創傷治癒の遅延
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神経障害(不安、不眠、多幸感)
最も危険な副作用は免疫機能の低下による感染症の悪化や、新たな感染症の発症です。
また、ステロイド剤を長期間使用し続けることにより副腎皮質の機能が低下し、副腎皮質機能不全症になる可能性もあります。
ステロイド剤の使用により副作用が生じてしまった場合、急に服用を中止してしまうと危険です。
ステロイド剤によって抑えられていた病気の症状が再発、もしくは体内のステロイドホルモンの量が足りなくなり、最悪の場合命を落としてしまうこともあります。
ステロイド剤の減薬・断薬を行う場合には、獣医師と相談の上、ワンちゃん・ネコちゃんの体にとって無理のない減薬スケジュールを計画する必要があります。
5.ステロイド剤の代替治療
ステロイド剤がワンちゃん・ネコちゃんの病気の治療に必要とされる場面は多くあります。
しかしながら、
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治療効果を得るためにステロイド剤の高用量かつ長期な投与が必要
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ステロイド剤を減らす、または休薬すると再発を繰り返す
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ステロイド剤の副作用が強く、継続が困難
以上のような場合、ステロイド剤以外の代替治療を選択あるいは併用することも可能です。
当院ではこういった、薬の副作用や症状の再発によりコントロールが難しい症例に対して、幹細胞治療(再生医療)を選択または併用しています。
6.幹細胞治療について
幹細胞治療は、ステロイド剤など従来の治療薬とは異なる作用で炎症を抑え、免疫バランスを調整します。
従って、今までの治療で効果が乏しかったワンちゃん・ネコちゃんに対しても治療効果を期待することができます。
また、幹細胞治療が効果を示すことにより、ステロイド剤の減薬が可能になった症例も当院で複数経験されています。
幹細胞治療というと大掛かりで大変そうなイメージがありますが、実際は点滴により細胞を投与するだけで麻酔をかける必要はありません。
再生医療(細胞治療)の費用
当院の再生医療は点滴による方法と、注射による方法があります。どうぶつの病気や状態に合わせて実施することが可能です。
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点滴による方法
半日ほど入院していただき、幹細胞を点滴でゆっくり投与します。
動物病院で最もよく行われている方法で、安全性や有効性が一定程度わかってきています。
そのいっぽうで、重度の心臓疾患や肺疾患などを患っている場合など、全身の状態によっては、リスクが高くなる可能性があります。
費用:¥200,000(税別)※診察料、検査料などは別途必要となります
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注射による方法
幹細胞を筋肉に直接注射します。注射による投与ですので、入院は必要ありません。
主に基礎研究の分野で安全性や有効性を示した報告がいくつかあるものの、これからの研究発展が期待されています。
費用:¥30,000(税別)※診察料、検査料などは別途必要となります
幹細胞治療の流れ
【問診】
【検査】
【治療】
お問い合わせ
幹細胞治療は、細胞のもつ炎症を抑える働きや、免疫バランスを調整する働きを利用することで、従来の治療で効果がなかった動物に対しても、腸の炎症を抑え、便の改善や食欲の回復が期待できる最先端の治療法です。
ステロイドの使用についてお悩みの飼い主さまがいらっしゃいましたら、当院までお電話いただくか、お問い合わせフォームよりご連絡下さい。
また、幹細胞治療の有無にかかわらず、セカンドオピニオンも承っております。かかりつけ医様とは別の角度から、治療の進行状況、次の治療の選択などをアドバイスいたします。
なかなか治らない皮膚病の対応病院
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※ キャットフレンドリークリニック(CFC)とは
CFCとは、国際猫医学会(ISFM:International Society of Feline Medicine)が提唱する国際基準を満たした動物病院に認定される「ネコにやさしい病院」のことで、世界的に普及しています。認定を受けた病院は、以下の基準をクリアしています。
- 猫特有のニーズを理解し、猫にとってより優しい病院になるよう努力する。
- 優しく親身にかつ、思いやりのある方法で猫を扱うことを心得る。
- 猫の病気の診断・治療に必要な水準を満たした設備を有する。
- 入院する猫のための設備と看護内容に関して高い水準である。