獣医師が解説 犬のIBD(炎症性腸疾患)

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炎症性腸疾患(IBD)の治療について

再生医療実施件数

IBD(炎症性腸疾患)とは

最近おうちのワンちゃんにこんな症状はありませんか?
あまり食べない、やせてきた、吐く、便がゆるいなどの状態が3週間たっても治らない。

もし当てはまるようでしたら、早めに動物病院に連れていかれた方が良いかもしれません。

この場合、私たち獣医師はまず、食物アレルギー、感染症、膵炎、腫瘍などの病気を疑って検査を行います。

しかしそれでも原因が特定できないときには、IBD(炎症性腸疾患))という、重症化すると大変厄介な病気が潜んでいることが多くあります。

IBDは、特に理由がないのに腸に炎症の細胞が集まり、持続的な炎症を引き起こす病気です。

IBDにより腸に炎症が強く起こり続けると、食べない、やせる、吐く、便がゆるいなどのほか、お腹に水がたまる、血が固まりやすくなるなど、さまざまな症状が出てくることがあります。

IBD(炎症性腸疾患)とCE(慢性腸症)

動物の医療では、このような症状をもたらす病気のことを総称してIBDと呼んできました。

しかし、人のIBD(潰瘍性大腸炎、クローン病)とは病態が大きく異なることが知られるようになり、最近ではIBDに代わりCE(慢性腸症)と呼ぶようになっています。

CE(慢性腸症)の治療

CEの主な治療法は、食事療法や抗生物質、炎症細胞を抑える薬(副腎皮質ステロイド剤)、免疫抑制剤などの投与となります。

ステロイドについて

ほとんどの場合、これらの治療により改善していきますが、お薬を完全に止めることは難しく、薬の長期間の使用により副作用が強く出たり、再発を繰り返してしまったりすることがあります。

そして残念ながら、治療が効かずに亡くなってしまう場合もあるのが現状です。もし治療が効いていないと感じた時には、CEがさらに進行する前に、新たな治療法に変えてみることも一つの方法です。

当院ではこういった、薬の副作用や症状の再発によりコントロールが難しい症例に対して、幹細胞治療(再生医療)を実施しています。

幹細胞治療というと大掛かりで大変そうなイメージがありますが、実際は点滴により細胞を投与するだけで麻酔をかける必要はありません。また、当院で行なっている幹細胞治療の約半数はCEの患者様となっております。

幹細胞治療は、従来の治療薬とは異なる作用で炎症を抑え、免疫バランスを調整し、今までの治療で効果が乏しかったワンちゃんに対しても、腸の炎症を抑え、便の改善や食欲の回復が期待できます。

再生医療を用いたCE(慢性腸症)の治療

<幹細胞治療開始前>

細胞治療前の症例

治療開始前の写真です。
重度の体重減少により皮下脂肪や筋肉が減少し、肋骨がはっきりと確認できます。

<幹細胞治療から2年後>

細胞治療開始から2年後の症例

幹細胞の投与から2年経過した現在(2020年7月)の様子です。皮下脂肪や筋肉が回復し、ベストな体型を維持できています。

幹細胞治療の特徴

体に優しい

幹細胞は点滴により体に投与するため、体に負担のかかる全身麻酔や切開などを行いません。

日帰り可能

点滴や一般的な検査を行うだけなので、午前中にお預かりし、夕方にお返しすることが可能です。

副作用が少ない

ステロイドや免疫抑制剤と異なり、副作用が少ないと言われています。

このような飼い主様に適しています

一般的な治療でやれることがなくなったと言われた飼い主様

一般的に使用する薬剤とは全く異なる作用で治療を行うため、今までの治療で効果がなかったとしても有効性が期待できます。

副作用が心配な飼い主様

幹細胞治療は体にもともとある仕組みを利用した方法なので副作用が少ないといわれています。

お薬を減らしたい飼い主様

幹細胞が炎症を鎮めて免疫を調節してくれるため、お薬の種類や量を減らすことが期待できます。

再生医療(細胞治療)の費用

当院の再生医療は点滴による方法と、注射による方法があります。どうぶつの病気や状態に合わせて実施することが可能です。

  • 点滴による方法

半日ほど入院していただき、幹細胞を点滴でゆっくり投与します。
動物病院で最もよく行われている方法で、安全性や有効性が一定程度わかってきています。
そのいっぽうで、重度の心臓疾患や肺疾患などを患っている場合など、全身の状態によっては、リスクが高くなる可能性があります。

費用:¥200,000(税別)※診察料、検査料などは別途必要となります

 

 

  • 注射による方法

幹細胞を筋肉に直接注射します。注射による投与ですので、入院は必要ありません。
主に基礎研究の分野で安全性や有効性を示した報告がいくつかあるものの、これからの研究発展が期待されています。

費用:¥30,000(税別)※診察料、検査料などは別途必要となります

従来の治療法との比較

効果

従来:対症療法のため、根本の問題は治療できていないため、薬を飲み続けないといけない。

幹細胞治療:根本的に治療を行うため、断薬や休薬・減薬が期待できる。

副作用

従来:ステロイドや免疫抑制剤などは副作用が強く出てしまうことがある。

幹細胞治療:体のもともとの仕組みを利用しているため少ない。

治療期間

従来:長期間の治療(場合によっては一生)が必要。

幹細胞治療:期待どおりの効果が得られた場合には、完全な休薬も可能。

ペットへの負担

従来:毎日多くのお薬を飲むことや、定期的なステロイド剤注射等が負担になる場合がある。

幹細胞治療:静脈点滴による投与のため痛みはほぼなく、その後減薬を目指しペットの負担を減らす。

費用

従来:1回の診療費はそれほどではないが、治療が長期に渡るため合計すると高額になりがち。

幹細胞治療:1回の治療は高額であるが、治療期間が短くなったり、薬の種類や量が減ったりするとその分安くなる。

幹細胞治療の流れ

【問診】

ワンちゃんの状態などをお伺いします

【検査】

細胞治療前の検査の様子

【治療】

細胞投与の様子

お問い合わせ

幹細胞治療は、細胞のもつ炎症を抑える働きや、免疫バランスを調整する働きを利用することで、従来の治療で効果がなかった動物に対しても、腸の炎症を抑え、便の改善や食 欲の回復が期待できる最先端の治療法です。
また、幹細胞治療の有無しにかかわらず、CE(慢性腸炎)、IBD(炎症性腸炎)について、かかりつけ医様とは別の角度から、治療の進行状況、次の治療の選択などの相 談も承っております。
診察をご希望される方は、当院までお電話いただくか、お問い合わせフォームよりご連絡下さい。
(再生医療をご希望される際の初診料は税別3,000円となります)

細胞治療ってどんな治療法?
細胞治療の作用機序について
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